前澤智コラム「前"さわ"智です」第7回「帰省~高校時代」
前澤智コラム「前"さわ"智です」第7回「帰省~高校時代」
女子柔術家・月イチコラム

実は自分の故郷が好きではありませんでした。
未熟な自分をたくさん思い出してしまうからです。
私は青森県八戸市で生まれました。
姉2人はバスケ部とソフトボール部に。
父親は山岳部、母親はバレーボール部(だったような)。
格闘系遺伝子は無いはずですが、私は中学になると同時に柔道部に入りました。
それよりも前に一年だけ、少年団で柔道をしていましたが、先生が怖くて辞めました(笑)
中学に上がると必ず部活に入らねばならず、団体行動が苦手な私は小学生の時にかじっていたという理由で本格的に柔道を始めました。
当時、一生懸命やっていた自負はあれど中学も高校も毎回決勝戦で同じ相手に負けてしまう、そんな選手でした。
高校デビューを目論むも「優勝したい!」と宣言しまった為、一緒に燃えてくれた先生にそれはそれはしごかれて3年間を過ごしました、、
高校同期は3人で、先輩はすぐ卒業してしまった為、入部と同時に同期が部長、私が副部長になりました。

私が通った八戸商業高校は、隣に「こどもの国」という遊園地兼植物園があり、土日の練習はそこをよく走ったり、手押し車で走ったり、肩車で走ったり、お姫様だっこで走ったりしました(される方ではなくする方です)。
一度だけ、サボってジェットコースターに乗ったのはここだけの秘密ですが、先生に読まれていたら今度の帰省の際に懺悔したいと思います。
キツいことが大嫌いで、ラントレは特に嫌い、乱取り(柔術で言うところのスパーリング)も痛いし勝てないし嫌いで嫌いでした。
綱登りも嫌いだったし、元立ち(何本もスパーリングして相手がどんどん変わっていくが自分はずっと休みなくスパー)も嫌いでした。
あまりにも練習が嫌で、怪我を理由に病院にいく、と早退を繰り返していた時期もありました。
そんな弱い自分も大嫌いでした。
地元に行くとそういう自分の弱さ、情けなさを思い出してしまい恥ずかしくなるので、地元自体嫌いでした。
先生がある日、
「怪我はわかっている。でももう少し頑張らないといけないんじゃないか?」
「今やれることがあるんじゃないか?それは通院か?」
そう言ってきたことがありました。
大人になってわかるのですが、子どもの嘘って大人にはバレバレなんです。
わかっていて泳がされてるのにも気づかずに。
同期に成田くんという男の子がいました。
柔道部とは思えない(柔道に失礼)長身イケメンの部長で、商業高校文化祭の投票イベントで見事「ミスター」(学年イチかっこいい人がなれるアレ)に選ばれることもある男子でした。
当時はホストみたいな、アシンメトリー前髪と、長い襟足の髪型が流行っていて、男子も女子も中島美嘉のような感じ。
柔道部といえば長髪禁止!でしたが、成田くんはそれはそれはかっこいい髪型の男の子。
今回の帰省で久しぶりに成田くんや、後輩に会ってたくさんの思い出話をする中で成田くんが「なぜ丸坊主にしたか?」がテーマに上がりました。
何を血迷ったか、成田くんがある大会のあと丸坊主にしてきたことがあったのです。
学校中激震でした。

今回、当時のことを初めて本人から聞いたのです。
「あと一歩のところで勝てる強い選手と、良い試合をしたのに最後の最後勝てなくて悔しかったから」
県大会、その試合に勝ったらベスト4になれる、大一番だったと記憶しています。
「とても悔しかった、あと一歩だったのに。気合いを入れるために坊主にした。恥ずかしかったけど(笑)」
そう言ってました。
成田くんは入部当初は少し頼りない雰囲気を持っていました。
フィジカル弱いし、合宿に行くと好き嫌いも多くて、成田くんの食べられないものを代わりに食べた記憶が何度かあります。
でも私が早退したどの日も、成田くんは最後まで練習していました。
男女の体格差はあれど、どんどん勝てなくなり、学生最後の方は先生やコーチを投げる場面に何度か出会したこともありました。
部活後筋トレしよう!と部員みんなを引っ張ってくれる頼もしい部長でした。
私は今でこそ嫌いなことも、結果を出すために必要なことであれば向き合うこと、時間の大事さがわかるようになったことで怪我をしてでもできる練習をするという工夫、頑張る仲間から自分も頑張る力をもらえる器、感性、高校時代無かったものがそれなりに備わったと思いますが、成田くんはもう備わっていたんだなぁと。
人間っていつ完成するのかな?と考えさせられました。
先生に喝を入れられ、優勝したい!と心を入れ替えた自分は練習を休まなくなったし、自主的にトレーニングをする、別の学校に出稽古に行く、練習後には必ずノートを書く、練習あとはパラエストラ八戸で社会人と寝技練習する、
そういう高校生活を送りました。
努力の量が足りず、いつも2位止まりで卒業した自分は1番への憧れ、乾きを拗らせて無事に総合格闘家となる訳ですが、書ききれないので、来月も帰省について書きたいと思います。
次回は自分が今故郷が好きか嫌いかをお伝えする内容にしたいと思います。
改めて、今回会えた柔道部の皆ありがとう。
今はそれぞれのステージで頑張っていること、あの頃があったから今げらげら笑えること、来年もまた会いたいなと思えることが幸せです。
今も格闘技をしてるよと、高校時代の自分に伝えたら驚きそう。
辞めずにできている今の環境に感謝です。

前澤智(まえさわ・とも)
リバーサルジム東京スタンドアウト所属