ベンジャミン・チェンが語る「ヒクソン柔術の深淵」──競技を超えた“生き残るための柔術”とは何か
ベンジャミン・チェンが語る「ヒクソン柔術の深淵」──競技を超えた“生き残るための柔術”とは何か

世界各地を巡りながら、ヒクソン・グレイシーの教えを伝え続けているベンジャミン・チェン。
武道歴40年以上に及ぶ自身の歩み、ヒクソン・グレイシーとの出会い、競技柔術とセルフディフェンスの違い、そして現代柔術に対する問題意識までをじっくりと語ってもらった。
柔術とは何か――その本質に迫る意見の数々が聞けた。

──今回はなぜ日本に来られたのですか?
チェン:私はアジアがとても好きなんです。だから今回、アジアに行こうと決めました。最初に行ったのは台湾です。家族や友人に会いたかったのと、台湾で柔術を教えたいと思ったからです。その後、タイのバンコクにも行きました。そこにも知り合いのジムオーナーがいますし、滞在中にセミナーも行いました。それともう一つ理由があります。私はヒクソンに「旅をする中で、できるだけ多くの人に彼の教えを広める」という約束をしました。それが、私が旅を続ける大きな理由です。
──日本でクラスをやることになったきっかけは?
チェン:台北でセミナーをしていた時、台湾BJJで指導している小笠原誠さんに出会いました。彼が「もし日本に行くことがあったら連絡してほしい。教える場所を紹介できるかもしれない」と言ってくれたんです。そこからキンヤさんを紹介してもらいました。面白い話があって、私がヒクソンのもとで一緒に練習しているチョンという仲間がいるんですが、彼が「昔、エンシニータスのグレイシーバッハでキンヤを見たことがある」と言っていたんです。本当に世界は狭いですね(笑)。
──柔術以前の武道歴について教えてください。
チェン:私の武道歴は40年以上になります。最初に始めた武道はテコンドーで、10年間続けて黒帯を取得しました。その後は合気道(ハップキドー)を深く学びました。関節技などの近接技が中心ですが、すべて立ち技です。パンチやキックにはある程度自信がありましたが、心のどこかで「柔術」という存在をずっと怖いと感じていました。UFCが始まって、寝技の重要性が見えてきた時、「これは問題だ」と思ったんです。
──柔術を始めたのはいつ頃ですか?
チェン:46歳か47歳の頃です。カリフォルニアのカールスバッドにあるグレイシーウマイタの道場に通い始めました。最初の指導者はニック・ステファンです。彼は五段の黒帯で、彼から黒帯を授与されました。
──柔術を始めた当初の印象はどんな感じでしたか?
チェン:本当に最悪でした(笑)。無駄に力を使い、すべてに抵抗し、毎日潰される。でも、私はすでに他の武道で「辛い経験」をしてきたので、これは想定内でした。それでも続けているうちに、少しずつ良くなりました。無理に力を出さず、守り方を覚えるようになりましたが、それでも厳しい日々でした。
──道場の環境はハードだったそうですね。
チェン:そうですね。近くにキャンプ・ペンドルトンという海兵隊基地があり、20代の若い海兵隊員が多く来ていました。彼らは何かを証明したい年頃です。消防士や警察官といったファーストレスポンダーも多く、そこに30~40代、そして私のような50代が混じる。正直、かなり厳しい環境でした。
──競技柔術からヒクソン的な柔術へ移行したのはいつ頃ですか?
チェン:柔術歴13年のうち、6年を少し過ぎた頃です。その頃、私は自分が小柄でスピードもないことに気づきました。競技向けのテクニックは、私には合わないものが多かったんです。当時はジョン・ダナハーの映像なども見ていましたが、うまく使えませんでした。一方で、ヘンリー・エイキンスの技術は、私には非常に合っていました。
──そこから実際にヒクソン門下と交流するようになったのですね。
チェン:はい。一緒に練習していた仲間が、「オレンジカウンティでジャック・タファーと練習している」と教えてくれました。彼はデイブ・カマの系譜です。実際にジャックから学んだ時、完全に衝撃を受けました。「なぜ今までこれを知らなかったんだ?」と。そこから、デイブ・カマ、クリス・バーンズ、スコット・バーなど、ヒクソン門下の黒帯たちと学ぶようになりました。
──初めてヒクソンと練習した時、何が一番違いましたか?
チェン:一言で言えば、まったく別次元です。スター・ウォーズのヨーダのような存在です。氷山に例えるなら、普通の柔術は水面に出ている部分。ヒクソンの理解は、水面下の奥深くまで続いています。彼はそのすべてを教えることはできません。私たちに伝えられるのは、水面のすぐ下の部分だけです。
──最初の指導で印象的だったことはなんでしたか?
チェン:呼吸です。彼は風船を2つ用意し、浅い呼吸と深い呼吸の違いを体感させました。私は、呼吸だけを教える武道家に初めて出会いました。多くの人は「潰したい」「勝ちたい」と思って道場に来ます。そこで座って呼吸の話をされると、退屈に感じるかもしれません。でも、生き残るためには呼吸がすべてです。
──ヒクソンの柔術は、白帯にも教えられると思いますか?
チェン:これは非常に重要な質問です。私たちヒクソンの弟子の間でも、よく議論になります。正直に言えば、深い原理は、経験がなければ理解できません。白帯に細かい原理を教えても、何カ月もかかることがあります。ただし、私は「原理が存在する」ということだけは、最初から伝えるべきだと思っています。
──具体的にはどのようにしたらいいと思いますか?
チェン:物理法則のように説明します。そして、マウントエスケープなどのシンプルな技に落とし込む。派手な技よりも、基礎的な動きが失われていることの方が問題です。
──柔術を学んでいるすべての人に対してメッセージをお願いします。
チェン:私はブラジリアン柔術を「オープンソースの武道」だと思っています。どこに行っても試せる。機能するかどうかは実際にやってみれば分かる。ただ、競技が発展する一方で、セルフディフェンスが後回しになっていると感じています。青帯の段階で、護身の物理原理は理解しているべきです。柔術をする理由は人それぞれです。仲間、健康、精神的支え、競技――どれも正しい。しかし、「自分や弱い人を守るための柔術」があることを、決して忘れてはいけません。

「ベンジャミン・チェン・セミナーinミューズ柔術アカデミー」
日時:1/12(祝) 19:30-21:30
場所:ミューズ柔術アカデミー(東京・代々木)
費用:3000円(当日払い・現金のみ)
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