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増田俊也さんに訊く『七帝柔道記Ⅱ』インタビュー第1回「寝技ばかりの悲愴な練習をしていました」

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© TOSHINARI MASUDA

柔術家ならご存知であろう、『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』の著者・増田俊也さんの最新小説『七帝柔道記Ⅱ立てる我が部ぞ力あり』(角川書店)が今春、待望の発売を迎えた。

寝技中心の高専柔道、その流れを汲んだ七帝柔道(ななていじゅうどう)に身を置く男達の物語で、増田さんが所属した北海道大学柔道部時代をモチーフにした自伝的青春小説である。

寝技といっても、タップをすれば技を解き、笑顔で握手をするような現代の競技柔術からは程遠い。七帝柔道は、15人の団体戦で勝敗は一本のみ。絞めは落ちるまで。関節技は折れるまでと想像を絶する極限の戦いだ。

柔術をやる者であれば、ぜひ読んでおきたい寝技格闘技のルーツともいえる本作品について、発売後の増田さんから話を訊くことができた。全5回にわけてお届けをしたい。

第1回 | 第2回 | 第3回 | 第4回 | 最終回

聞き手=伊藤健一

――続編『七帝柔道記Ⅱ 立てる我が部ぞ力あり』刊行おめでとうございます!

増田:ありがとうございます。

――2013年に刊行された『七帝柔道記』から11年ぶりですが、柔術愛好家でもこの続編を待ってる人は多かったと思います。

増田:柔道じゃなくて? 柔術の人たちが待ってくださっていたんですか?

――いや本当に多いと思います! でも11年は長いという声もあります(笑)。

増田:たしかに小学生が大学を卒業するくらいの歳月だからね(笑)。でも僕の歳になると意外にそうでもないんですよ。若い頃の11年間と今の11年間では体感速度がかなり違うから。もしかしたら10倍くらい違うんじゃない? 

だから11年といっても僕の世代にとっては1年くらいですよ。大袈裟ではなく、それくらいに感じるよ。だから旧帝大(北大・東北大・東大・名大・京大・阪大・九大)柔道部の僕より年輩のOBたちは「そのうち出るだろう」ってのんびり構えてたみたいです。

――10年前に『七帝柔道記』が発売されてから、それに触発されたのもあって七帝戦と同じように柔術やグラップリングでも団体戦がたくさん開催されるようになってきました。団体戦の醍醐味ってありますよね。

増田:団体戦だとチームのために自分の力以上のものが出せるんですよ。だから思わぬ選手の活躍があったりして、それが七帝戦の醍醐味でもあります。

知ってのとおり七帝戦は戦前の高専柔道を受け継ぐルールで15人vs15人の団体戦ですから両チームとも力が入ります。

――なるほど。そうですね。

増田:そういえば、僕は名古屋在住だから、10年近く前、名古屋大学柔道部と柔術連合軍が試合したのを観にいきました。七帝ルールで15人vs15人の団体戦、抜き勝負、寝技への引き込みOK、場外なし、一本勝ちのみです。名古屋大学の選手たちがチームの勝利のために「参った(タップ)」しないから柔術の人たちは驚いたんじゃないかな。

もうひとつ、引き分けの技術が異常に発達してることにも驚いたと思う。これは個人戦ではありえないことですからね。相手の強い選手を引き分けに持ち込んで止めることに青春を燃やす「分け役」たちの意地が凄いです。超強豪選手に対する引き分けは1人抜きどころか2人抜き3人抜きに相当しますからね。

――あの名大vs柔術軍の試合は雑誌やネットで盛り上がってましたね。

増田:柔術軍には白木大輔先生も出てましたし、かなり強力なチームでした。対する名大も、当時、七帝戦で優勝争いをしている強い時代だから、かなり見応えがありました。

団体戦はチ—ム全体が生き物だし、柔術の選手たちも全力で声を出して応援してました。1人ひとりの選手がチームのなかでどういう役割を果たすかというのが、七帝ルールの見所です。刻一刻と状況も変わるから目が離せない。

――今回の『七帝柔道記Ⅱ』の物語の方に戻りますと、実際にあったことがベースになっているから物語が強靭です。

増田:そうですね。でも多くの登場人物のモデルが今ちょうど社長や重役になる争いをしている年代ですので少し控え目に書いてますけどね。

あるいは本当のことを人を傷つけないように少しアレンジしたり、名前を入れ替えたり横へスライドさせたり、いろいろです。みんな大酒飲んだり街で喧嘩したりすごかった。書けないことがかなり多いです。当時の北大生なんてバンカラで、ほんとにもう滅茶苦茶でした。

――ハハハ。

増田:なかには「あれはこうだったではないか」とか細かいこと言ってくる登場人物のモデルがいるけど、本当のことは書けないからそのように書いてるだけです。

登場する柔道部員の全員のバランス、七大学全体のこと、そしてこれを読んで憧れて入ってくる高校生たちのことも考えて丁寧に丁寧に書いてます。

――それでも充分魅力的ですけどね。

増田:ありがとうございます。道場のなかでは練習漬けでしたけど、道場の外では大雪のなかで酒を飲み廻っててね。『七帝柔道記Ⅱ』では主人公たちが上級生になってるから酒飲んでるシーンがたくさん出てきます。練習で疲れてるから、一度アパートに戻って仮眠して、それから酒を飲みにでかける。

だいたい普通の国立大学で柔道推薦入学でもないのに、あんなに馬鹿みたいに練習するのはほんと馬鹿みたいですよ、何言ってるんだかわからないけども。

――自分たちで自分たちを馬鹿みたいと言えるのがすごいです(笑)。

増田:だって将来柔道で食ってくわけではないし食っていけるわけでもないのに、毎日柔道漬け、寝技漬けの生活ですよ。馬鹿ですよ、ほんと。

前作が出たときに京大OBがゴング格闘技誌で鼎談して「間違いなく日本一の練習量だった」「たとえ相手が山下泰裕選手だろうと亀は取られてはいけない」と断言してました。僕ら北大にとっては七帝戦で最下位から脱出したいというのがあって、どの選手も真剣ですよ。

自分の尊厳、自分のプライドかけて道場でゴロゴロと寝技でぶつかりあってた。北大は11月からスチーム暖房が入るんだけど、札幌なんて8月の終わりにはもう肌寒くなってくるから、寝技乱取り中の選手たちの身体から汗が蒸気になってゆらゆらと上がっててね。蒼い顔して練習してた。悲愴でした、みんな。15人のレギュラーに入りたいし、入ったら入ったでレギュラーの責任が出てくるし、他大学に負けたくないし。

――たしかに凄まじい練習風景が描かれています。

増田:いま考えたら理不尽もいいところですよ。ほとんどずっと寝技乱取りばかりなんですから。

1年中、合宿や2部練、延長練習でしょう。それにプラスしてウェイトトレーニング。そして北海道警の特練への出稽古。北大道場にいても札幌刑務所が来たり、東海大四高や旭川龍谷、札幌第一、いろんな強豪高校が入れ替わり立ち替わり出稽古に来る。

そういう強豪は100kg以上の重量級ばかりだし、こっちは身体を休める暇がない。だから北大の部員はちっとも身体が大きくならない。逆に痩せてっちゃう。常にヘトヘトで「もう勘弁してくれ」の世界でした。

毎日猛吹雪だし。吹雪のなかトレーニングセンターとかへ移動するときとか遭難しそうでしたから。地球温暖化が進む前で、まだ雪が異様に多かったから。

<この項、続く>

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