
8月15日、16日の2日間、東京・墨田区のひがしんアリーナでASJJF主催「キン肉マン杯2026」が開催された。
開催発表の段階から、とにかく話題に事欠かなかった今大会。
初開催というだけでも大きなニュースだったが、エントリーは早々に定員に達し、第二次締切を待たずして締切に。
さらに大会直前には観戦料の導入をめぐってSNS上がざわつくなど、まさに波乱の船出となった。
「本当にどうなるんだろう」
大会前日の金曜日、設営準備のために会場入りした時点では、そんな不安を感じていた。
ところが、いざ現場に入ってみると、そんな心配をしていたのは自分だけだった。
会場スタッフはブラジル人が中心。
大会運営の中心にいる彼らは、SNSでのザワつきなど知る由もなく、まるで何事もなかったかのように淡々と準備を進めていた。
「え、そうなの?」というぐらい、いたって平常運転。
大会を運営することに関しては、彼らはまさにエキスパートだ。
事前に十分な検討を重ねたうえで観戦料3,000円という判断をしており、「どうしても来てください」と無理に観客を呼び込もうとするわけでもない。
あくまで大会参加者への対応と同じように、淡々と運営を進めていた。
結果的に、こちらが心配していたような運営上の混乱は何も起こらなかった。
■3,000円の観戦料は適正だったのか?
今回、大きな話題となったのが観戦料3,000円の導入だ。
選手・コーチはIDを提示して入場で、それ以外の観客は3,000円を支払って入場するというシステムになった。
正直、会場内の動線や入場時の混乱は大丈夫なのかと思っていたが、結果は非常にスムーズだった。
しかも、3,000円を支払った観客には、キン肉マンの非売品グッズが入場特典として用意されていた。
IBJJFの大会などでもおなじみの巾着タイプのバッグで、内側には小銭や鍵などを入れられるポケットも付いている。
しかも今大会のメインビジュアルを流用した特製で、一般販売されない非売品だ。
単純に「3,000円払って入る」というだけではなく、そこに入場特典を付けたことで、観客側にも一つのメリットが生まれた。
もちろん、これまで無料だった大会と比較すれば、3,000円は決して安くない。
しかし今回の観戦料には、もう一つ大きな意味があった。
それは「入場者数を抑制するためのフィルター」だ。
これまでと同じ無料、あるいは低価格であれば、興味のある人が一気に押し寄せる可能性がある。
今回はすでにエントリーが1,500人を大きく超えており、そこに大量の観客が加われば、会場がパンクする可能性も十分にあった。
3,000円という価格によって「それでも観たい」という人と、「今回はやめておこう」という人をある程度振り分けることができた。
結果として、会場内は大きな混雑もなく、入場もスムーズ。
終わってみれば、かなり絶妙なラインだったのではないかと思う。
もちろん、会場は少し暑かった。
ただし、これは会場の空調設備によるもので、観戦料とは別の問題。
暑い・寒いは個人差もあるので、あくまで個人的な感想としておきたい。

入場特典の非売品特製バッグ。これだけでも3000円の価値はあったことだろう。
■キン肉マンを感じさせた“等身大スタチュー”
今回、個人的にかなり良かったと思うのが、会場に設置されたキン肉マンの等身大のスタチューだ。
実は大会前日の段階では、壁際にそのままポツンと置かれているだけだった。
「これ、ちょっと寂しくない?」
という話になり、せっかくのキン肉マンなのだから、きちんとしたバックドロップ的な背景を作ったほうがいいとなった。
そこで大会主催者であるエジソン・カゴハラ氏が一度会場を離れ、群馬の大泉にあるASJJFのオフィス兼倉庫までバックドロップを取りに戻ることに。
夜遅くまで準備して、翌朝7時には会場入りし、そこからセッティングを行った。
その結果、スタチューの後ろにはしっかりとしたバックドロップが設置され、見栄えは大きく変わった。
小さな部分のように見えて、実はこういうところが大会全体の印象を大きく左右する。
そして、このスタチューが完全なフォトスポットになった。
SNSにはスタチューと一緒に撮影した写真が次々と投稿され、「キン肉マン杯に来た」ということが一目で分かるビジュアルになった。
さらに2日目には試合を終えた嶋田先生も来場し、チーム表彰のプレゼンターを務めながらスタチューの前で参加者との写真撮影にも応じた。
本来ならキン肉マンの着ぐるみなどがいて、子どもたちと写真を撮ったりできればさらに良かったのだろうが、今回はスタチューと嶋田先生が並ぶだけでも充分に「キン肉マン杯」の絵になった。
このスタチューを実際に運んでくれた大会関係者の尽力も大きかった。
大会の成功を支えた、まさに“影のMVP”の一つだったと思う。

前日設営時点でのキン肉マン等身大スタチュー。このままだとやや雑な感は否めない。

急遽ASJJFのオフィスまでバックドロップを取りに行き、大会当日の朝にセッティングされたバックドロップ。これでグッとフォトスポット感が増した。

大会2日目には自身の試合を終えた嶋田先生もフォトスポットに常駐し、来場者との記念撮影に快く応じていた。

関係者の尽力によりキン肉マンスタチューの設置が叶ったとのこと。ありがたい。
■1,588人が出場。大会運営は驚くほどスムーズ
最終的なエントリーは1,588人。
当初は1,600人、1,700人規模とも言われていたが、それでも十分すぎる人数だ。
6面のマットを使用し、1マットあたり100試合前後を消化。
2日間にわたって非常に多くの試合が組まれたにもかかわらず、大会進行は驚くほどスムーズだった。
初日は朝から夜まで、2日目も朝から夕方まで試合が続いたが、大きな進行トラブルはなし。
ここはASJJFの強さだと思う。
毎週のように大会を開催しているだけあって、会場が変わっても大会運営のクオリティが大きく変わらない。
愛知や群馬など各地からスタッフが集まり、普段から一緒に大会を運営しているチームだからこそ、今回のような大規模大会でも同じように動くことができる。
「キン肉マン杯」という特殊な大会でありながら、大会そのものの運行・進行に関してはほとんど問題がなかった。
これは非常に大きなポイントだ。
■“お祭り感”を生んだ、マット外の仕掛け
今回、SNSなどで「お祭りみたいだった」という声が多かったのも印象的だった。
大会そのものはもちろんだが、マット外の部分にちょっとした仕掛けがあった。
入場特典のグッズがあり、キン肉マンのスタチューがあり、写真を撮れる場所がある。
こうしたものは、競技そのものには必要ない。
しかし、「あってもなくてもいいけれど、あったらうれしい」という部分こそ、大会をイベントとして盛り上げる。
今回はそこが非常にうまく作用した。
特に、開催前にはさまざまなことでネガティブな話題が先行していたからこそ、終わってみれば「結果的に良かった」と思えるものが数多く残った。
■キン肉マン杯だから生まれた新しい対戦
今回、もう一つ面白かったのが、普段の大会ではあまり見られない選手たちが多数出場したことだ。
早期締切になったため、普段から大会に出ている選手の中にはエントリーできなかった人もいた。
一方で、「キン肉マン杯だから出てみよう」という層が新たに参戦した。
その象徴の一つがマスター61のカテゴリーだ。
通常ならトーナメントを組むこと自体が難しい年代・階級でも、今回はエントリーが集まり、実際にトーナメントが成立した。
これは単純に大会規模が大きかったからというだけではなく、「キン肉マン杯」という名前が普段柔術大会に出ていない層まで引っ張った結果でもある。
そして、その中でも非常に印象的だったのが浜崎朱加選手だ。
浜崎選手とは実に約10年ぶりの再会だった。
以前、日本で開催されたワールドプロの予選大会に出場していた浜崎選手。
そのときはクローズドガードに苦戦して敗れるという、MMAファイターにはありがちな柔術ならではの苦い経験もあった。
しかし今回は「しっかり対策してきました」と笑っていた。
そして今回、浜崎選手と対戦したのがあきぴ選手。
もともとあきぴ選手は浜崎選手のファンで、イベントにも足を運んでいたという。
もはや「ファン」というよりガチ勢だ。
そんな2人が、今回は同じトーナメントで対戦することになった。
浜崎選手は1回戦が不戦勝。あきぴ選手は1回戦を腕十字による秒殺一本勝ちで勝ち上がり、決勝で対戦することになった。
MMAの世界では、元王者クラスのキャリアを持つ選手と、まだプロデビューしていないアマチュア選手が同じ舞台で対戦することはまず考えにくい。
しかし、柔術だからこそ、こうした対戦が成立する。
それぞれのキャリアを考えれば、非常に珍しい組み合わせだ。
これも「キン肉マン杯だからこそ生まれた一戦」の一つだったと思う。

浜崎朱加 vs あきぴの一戦は今大会のハイライトの1つとなった。
■嶋田先生、青帯初勝利で銅メダル!
そして大会を語るうえで外せないのが、嶋田先生の活躍だ。
嶋田先生は今回、自らも試合に出場。
なんと1回戦を8-0で勝利し、青帯デビュー以来の初勝利を挙げた。
これまでの試合では、相手の攻撃を受けてしまい、そのまま崩されて一本まで持っていかれるというパターンが多かった。
しかし今回は違った。
相手に攻められても、しっかりとリカバリーし、そこからカウンターにつなげる。そしてバックを奪い、最終的には8-0の完勝。
次の試合では敗れたものの、一本を許さず、見事3位の銅メダルを獲得した。
IBJJFルールとASJJFルールでは細かな違いがあるが、ASJJFでは決定的なポジションを取られても、ポイントになる前にリカバリーできれば失点しない。
そのルールを活かしながら、しっかりと自分の柔術を展開できたのは大きかった。
何より、続けていれば昨日より今日、先週より今週と、少しずつでも成長できる。
年齢を重ねれば体力は落ちる。
だからこそ、その体力の衰えを補うのが技術であり、その技術を培うのが日々の練習だ。
今回の嶋田先生の勝利は、そのことを改めて感じさせてくれるものだった。
また、嶋田先生の柔術の師匠である井賀孝さんのワンマッチも非常に熱かった。
激闘の末、最後はサドンデスを制して勝利。
弟子たちの前で負けられないという気持ちもあったのだろう。
あの試合も、まさに柔術の熱さを感じさせる一戦だった。

嶋田先生の青帯初勝利&3位入賞をキン肉マン杯で成し遂げたのは快挙だろう。

嶋田先生の柔術の師である井賀孝もサドンデスの激戦を制しての優勝も見事だった。
■終わってみれば「やってよかった」
大会前には、正直どうなることかと思った。
観戦料3,000円の導入。
早期締切。
直前まで続いたさまざまな話題。
そして「キン肉マン」という大きなコンテンツとのコラボレーション。
これだけの要素が重なれば、少しでも運営を誤れば「キン肉マン杯だからこそ大変なことになった」という結果にもなり得た。
しかし、終わってみれば大会は無事終了。
1,588人という大規模なエントリーを抱えながら、大きな運営トラブルもなく、会場の入場もスムーズだった。
そして何より、SNS上に大会の写真が大量に流れ、「お祭りだった」「楽しかった」という空気が残った。
これは非常に大きい。
今回、キン肉マン杯という大会が、単なる「大会名にキン肉マンが付いただけの柔術大会」ではなく、きちんと一つのイベントとして成立したことは間違いない。
■キン肉マンにとっても大きな一歩
今回の大会は、柔術界だけでなく、キン肉マン側にとっても大きな意味があったと思う。
ブラジル人スタッフの中には、そもそもキン肉マンを知らない人もいた。
しかし、実際に大会を開催し、スタチューが登場し、メダルやグッズにキン肉マンが入り、会場全体がキン肉マン一色になったことで、「キン肉マンってこんなにすごいんだ」という認識が生まれた。
大会をきっかけに、これまでキン肉マンを知らなかった人たちに、その存在を知ってもらえた。
それだけでも今回のコラボレーションには大きな意味があったのではないだろうか。
もちろん、そこから現在連載中の週刊プレイボーイ誌を読むかどうかは別の話ではあるのだが。
まずは「キン肉マン」という存在を知ってもらう。
その入口として、今回の大会は十分な役割を果たしたと思う。
■「来年もやりましょう」
そして大会終了後には、来年以降の開催についても前向きな話が出ている。
今回、初開催でいろいろなことがあったからこそ、ここで一度きりにしてしまうのではなく、2回、3回と続けていくことに意味がある。
できれば5年、10年と続いてほしい。
そして、いつか子どもの頃にキン肉マン杯に出場していた選手が大人になり、「僕が初めて出た柔術大会はキン肉マン杯でした」と言うようになったら面白い。
そんな大会になれば最高だ。
いま日本の柔術シーンには、IBJJFアジア、JBJJF全日本、SJJIFワールド、全日本マスターなど、歴史と規模を持つ大会がある。
その中に「キン肉マン杯」という新しい柱がドーンと立てばいい。
柔術とキン肉マンがより密接な関係を築き、コラボグッズなどもどんどん生まれていく。
これこそ双方ともにメリットがある、素晴らしい相乗効果であると思う。
今回のキン肉マン杯は、まだ始まったばかり。
波乱含みのスタートだったからこそ、この先どこまで大きくなっていくのか楽しみな大会になった。
第1回大会を無事に終えた今、次に期待したいのは「第2回キン肉マン杯」。
今度はさらに大きな会場で、さらに多くの人を巻き込み、柔術界を代表する大会の一つへ。
キン肉マンと柔術の物語は、ここから始まる。

「キン肉マン杯」は日本柔術シーンの新たな“柱”となる大会となるように今後も継続開催を期待したい。
■女子キッド6灰帯フェザー決勝戦
レベッカ・ナカシマ / INFIGHT JAPAN
vs
ダイアナ・ベラスケス / Impacto BJJ
■女子キッド5黄帯ミドル決勝戦
金美來 / 柳澤柔術
vs
シエナ・ベラスケス / Impacto BJJ
■女子アダルト紫帯ライト決勝戦
岩村幸加 / TATORU
vs
ライラ・ホシャ / UNITED FIGHTERS ACADEMY
■女子マスター36紫帯ライトフェザー決勝戦
浜崎朱加 / 寿柔術
vs
阿部真奈美 / ABLAZE八王子
■ジュブナイル青帯ミドル決勝戦
アリソン・カバウカンチ / カーロストヨタBJJ
vs
清水瑛太 / トライフォース光が丘
■アダルト青帯スーパーヘビー決勝戦
フェリッペ・ネモト / カーロストヨタBJJ
vs
李承洋 / 台湾BJJ
■アダルト紫帯ライトフェザー決勝戦
ルーカス・ナラザキ / カーロストヨタBJJ
vs
中池武寛 / パラエストラ小岩
■女子キッド3灰帯フェザー決勝戦
鳴海喜々 / 一心柔術
vs
上田澪里 / パラエストラ小岩
■女子キッド4灰帯ライトフェザー1回戦
輿石梨花 / AXIS GUNMA
vs
石澤謡 / X-TREME EBINA
■女子キッド4灰帯ライトフェザー決勝戦
石澤謡 / X-TREME EBINA
vs
響本幸来奈 / JP柔術アカデミー
■キッド6灰帯ライトフェザー決勝戦
カイト・オバタ / Impacto BJJ
vs
清野那由多 / カーロストヨタBJJ
■ノーギ・女子マスター30白帯ライトフェザー決勝戦
永田可奈 / ファイトレ
vs
橘智子 / ミューズ柔術アカデミー
■ノーギ・キッド6橙帯ライト決勝戦
高橋夢羽人 / CARPE DIEM KURUME
vs
松田徠聖 / MASTER JAPAN FUKUOKA
■ノーギ・アダルト青帯フェザー決勝戦
高本哲至 / 高本道場
vs
アリソン・カバウカンチ / カーロストヨタBJJ
■ノーギ・マスター46黒帯フェザー決勝戦
杉本孝 / Now Or Never
vs
高下独人 / 今成柔術